書籍のレビュー・概要
長い進化を共にしてきた細菌とそのウイルス(通称ファージ)は膨大に存在している。薬剤耐性菌による感染症の死者がガン死者を上回る将来予想が示される中、忘れられていたファージ療法が復活する。分子生物学を誕生させ、医薬品開発の基盤技術ともなっているファージの探究史を、その発見から今日までドラマチックに描きだす。 ■著者からのメッセージ 本書ではファージの魅力にとりつかれた人々の話をとりあげましたが、私自身もファージのとりこになりました。病原体ではなく、共生生命体としてのウイルスについて、もっとも原始的な生物である細菌とファージの相互関係から、多くを学ぶことができると思います。 私は1995年からウェブサイト上で人獣共通感染症について 連載( https://www.jsvetsci.jp/05_byouki/ProfYamauchi.html ) をしていましたが、その読者から、「善玉ウイルスはないのか」と質問を受けました。善玉ウイルスという発想はそれまでなかったのですが、その視点から考えて真っ先に浮かんだのがファージ療法でした。それ以来、関心をもって調べてきました。 善玉になるのか、悪玉になるのかは、ウイルスの立場に立つのか、人間の立場に立つのかで変わります。細菌の立場に立てば、また違った見方にもなります。 ファージの場合は、溶菌性(感染した細菌の中で増殖し細菌を破壊して子ファージが飛び出してくる状態)と、溶原性(感染した細菌のゲノムにファージのゲノムが組み込まれて細菌を殺さずに細菌の増殖とともに増える状態)を行き来して、これを繰り返します。こうした共生関係は、ファージに限らず、生物の世界の全般に起こっていることで、そのもっとも原初的な形がファージの世界にあります。ファージ・細菌・人間の相互関係をうまく利用して、ファージ療法は生まれてきたといえるでしょう。 現在、多くの人がファージ療法の活用に向けて努力していることを本書では述べました。今回は抗菌剤の話を中心にしましたが、環境や畜産分野でもファージ療法は検討されつつあります。人間に対するファージ療法はその人限りですが、環境の中にファージを放出することには、ファージ耐性菌の出現・拡散など、自然界の状況を変えてしまう潜在的な危険性も考えられます。これは組換えDNA技術についていわれてきたことと同じ論点です。環境や畜産分野への応用には、利点と欠点について慎重な検討が求められます。