書籍のレビュー・概要
「決めたぞ。戦時下の日常で起きた重要なことを、きょうからひとつひとつ書き残すことにする。」(一九四一年一月十六日)――戦時下に密かにつづられた日記。第三帝国の下劣さ、馬鹿らしさを批判し、空襲や迫害など戦争の中の日常を鋭い観察眼で描いたこの記録から、今わたしたちは何を読み取ることができるだろうか。 ■生誕125 年・没後50 年に贈る── ケストナーが戦時下に密かに綴った日記の全訳 ナチスに敵視されていたために、出版社からもらった青い束見本(通称「青い本」)に、日々の記録と小説のアイディアを速記文字で書いていたもの。 2018年にドイツで編集・刊行され大きな話題となった。その日記部分を全訳する。 詳細な注・訳注や解説、人名索引により、日記の時代背景やケストナーの人間関係までがわかる。 空襲、迫害、避難民から聞いた前線の話などを書き留め、戦争の愚かしさを皮肉たっぷりに描き出し、文学的/歴史的に貴重な証言であるとともに、作家ケストナーの内面を伝える重要な一冊。 *1945 年の日記は、加筆編集されて1961 年に「Notabene45(45 年を想起せよ)」として刊行された。邦訳は、 岩波文庫『終戦日記一九四五』(酒寄進一訳) 。 ■日記からの抜粋 一九四一年一月十六日 決めたぞ。戦時下の日常で起きた重要なことを、きょうからひとつひとつ書き残すことにする。そういうことを忘れないために書くのだ。この戦争がどのような結末を迎えるにせよ、意図して、また意図せずに忘却され、改変され、解釈され、また再解釈されてしまう前に。 一九四五年三月五日 未明の三時、小規模な空襲。正午にハンブルクからプラハに至るまで空襲。ほとんどのところで雲が濃く、ドレスデンもふたたび狙われたが、爆撃機編隊の一部は帰途に爆弾を捨てた。──ひどいジョークが人口に膾炙している。「ルーズベルトとヒトラーが新しい空の協定を結んだ。アメリカが爆撃機を提供し、ドイツが空域を提供する!」。