書籍のレビュー・概要
働きアリは子をもたずに女王を助ける――自己犠牲的な利他行動はなぜ進化しえたのか。ヒトに限らず様々な生物で見られる利他行動の謎はダーウィンを悩ませた。本書は生物界の多様な利他行動を紹介しつつ、血縁度と遺伝子プール概念により統一的な理解へと導く。進化とは何かから血縁選択の公式の導出まで丁寧に解説する。 ■著者からのメッセージ 生物に見られる利他行動を、ダーウィン以来、現代までの生物学者がどう解釈してきたのか。この問題について解説をしました。 かつて社会生物学・行動生態学という分野が日本に導入された直後である1980年代には、私の師匠の世代の人たちによる解説書がいろいろありました。しかし近年では、周辺の話題や表面的な解説に留まる本が多かったと感じています。 そこで、その後の展開も含めて、日本であまり進んでいない生物の利他行動の研究成果の普及の「穴」をうめる本を直球・ストレートで書きました。 包括適応度や血縁度という語を聞いたことがあるけれどもわかっていないという大学院生の方は、第8章を読めばしっかりわかります。 また、利他行動には社会的な関心もあると感じています。文系の方を含めて、数学を使った第8章以外のエピソードを読んでいただければ、だいたいのことがわかります。 生物学を学んだ方でも、進化生物学における利他についてはあまり勉強されていないように見受けられることがあります。生物学者のあいだに再勉強のニーズがもしあれば、という思いも今回の執筆のモチベーションでした。 生物の利他行動を説明にするには、稀な遺伝子の個体間共有(本書の題名に現れる血縁)や、他者(例えば親)による操作、といった要因を考えなければなりませんが、これらは人間社会における政治的文脈と重ね合わされてイメージされるために、タブー視されるきらいがありました。そのような背景からかあたりさわりのない互恵性がクローズアップされがちでしたが、互恵性で説明できる生物の事例はヒトも含む霊長類以外ではほとんどありません。 生物の利他行動の基礎を、本書できちんと解説して提供したいと思います。 (談)